現在は、災害法制を中心に研究を展開しておりますが、もともとは公法(特に憲法学)を出発点としております。以下に、具体的なテーマを紹介しておきます。
国際的な趨勢といってもよいが、法学においては災害法制に関する包括的・体系的なテキストがあまり存在せず、災害法学は未だ未発達な学問領域であるといえる。日本においても、同様の状況であり、自然災害という公共問題に法学は対応しきれなくなってしまっているのが現状である。そこで、共同研究プロジェクトの立ち上げを行い、外国における災害法制論の動向に注目していきながら、災害法制の包括的・体系的な把握を進めていく。最終的には、災害法学の構築の証しとして、災害法のテキストの完成を目指したい。
従来の憲法学は解釈論が主流であり、憲法の保障手段が裁判による保障に偏りすぎていたきらいがある。むしろ、憲法の理念は政策によって実現されるものが多く、これからは政策の評価・立案についても憲法学者が関与しなければならない状況下にある。そこで、憲法問題に対する政策論的なアプローチの方法として憲法政策論の必要性がある。ここにいう憲法政策論とは、憲法学で主流であった憲法解釈論を土台にしつつ、憲法の理念を実現するための政策を分析・評価ならびに提言するものである。
憲法政策論を展開することにより、以下のような学問上の成果が見込まれる。第一に、解釈論と政策論とのバランスのとれた議論が可能となることである。第二に、「使いにくい」憲法論から「使える」憲法論への転換をはかろうとするものであり、本来は抽象的な領域にとどまっていた憲法をより具体的な存在へと変化させることが期待できる。第三に、法制度の実態調査をもとにして政策提言を行うために、憲法の理念を漸進的にではあるが実現可能なものにする。
これまで山崎は、被災者支援法制に関する議論を、災害救助法・被災者生活再建支援法のあり方に限定をしていたが、被災者のニーズという視点から被災者支援法制をとらえてみると、非常に広範にわたる政策領域が関わり合いをもっていることが判明した。
このように広範な被災者支援法制を包括的・体系的に把握していくとなると、法規範の中でも上位の規範(憲法・基本法)において、被災者支援法制を方向付ける理念・政策目標の提示が求められる。そこで、憲法の条文からの理念の抽出を行い、かつ、憲法から抽出された理念をより具体的な政策目標として基本法に反映させる(基本法の改正を念頭に置いて)という試みを行いたい。
また、そもそも、これまで既存の被災者支援施策を被災者が利用し尽くしていたのかという視点に基づき、被災者による被災者支援施策活用の最適化を目指して、被災者台帳システムの構築とそれにまつわる政策法務上の諸問題について検討を行いたい。
災害時要援護者の状況や避難支援者等を記載した、いわゆる「災害時要援護者台帳」を作成し、避難支援の担い手に提供することで、避難態勢を整備しようとする動きがある。しかし、災害時要援護者台帳に記載されることになる情報は、センシティブな情報であって、個人情報保護という観点から細心の注意が必要となる。そういった要援護者の個人情報の共有のあり方について先進的な地域に対して実態調査を行う。「避難支援台帳」を作成する際に生じているのが、個人情報の活用ならびに保護の問題である。
そこで、(1)個人情報保護法制の本来の目的とは何か、(2)そこで保護されるべき個人情報とは何か、(3)個人情報の目的外利用・第三者提供の正当化を如何にするべきか、(4)個人情報の適切な共有のあり方とは何かについて検討を行う。特に、個人情報の共有形態について、地域の特性を考慮しながらいくつかのパターン化を試みる。
くわえて、地域コミュニティーの再生、避難支援者の確保、安全な避難経路・避難場所の確保、避難後における医療・福祉サービスの継続といった、本来検討されるべき課題についても逐次取り組んでいく予定である。
近年、比較的小規模な社会福祉施設において、多数の人的被害を伴う火災が発生している。2006年の長崎県大村市の認知症高齢者グループホーム火災(死者7名、負傷者7名)、2009年の群馬県渋川市老人ホーム火災(死者10名、負傷者1名)がその典型例である。
こうした背景には、介護保険法、老人福祉法、障害者自立支援法等の制度改正に加え、社会情勢の変化に伴う建物利用の多様化・複雑化があるものと考えられる。
そこで、小規模な社会福祉施設の現状を調査・把握し、効果的な防災対策のあり方について検討を行うとともに、より効果的な提言を行政ならびに社会福祉事業者に行おうとするものである。具体的には、①既存の消防法上の諸規制のあり方、②小規模施設の把握・監督に不可欠な消防・社会福祉・建築の3部局間での連携のあり方、③事業者が自主的に防災対策を講じることが出来るようなインセンティブのあり方、について研究を行いたい。
危機管理と憲法との関わり合いからすれば、どちらかといえば統治機構論的な色彩が強く、「いかにして行政をはじめとする統治機構を効率よく運用させるか」「緊急事態に際して、どこまで権限を拡大することができるのか」という事柄に関心が向きがちである。
しかし、人権論・民主主義論という視点から危機管理をアプローチしていくとすれば、「地域・住民を主役にした危機管理のあり方」であるとか、「社会的・経済的弱者に優しい危機管理」といったテーマ設定も十分可能であるし、現代社会においてはこのようなテーマ設定こそが要請されているのではないかと考える。そういった視点からの危機管理論をも追求していきたい。
これまでにも、災害時要援護者の避難支援というテーマで危機管理論を展開してきたが、今後は、具体的には、首都直下地震を念頭に置いた危機管理対策や自然災害以外の危機管理対策(パンデミック、福祉用具の安全性など)も視野に入れた検討を行っていきたい。
アメリカにおいては、2004年のインド洋大津波ならびに2005年のハリケーン・カトリーナをきっかけに、法学者も災害法の研究を本格的に行うようになってきた〔参照:Daniel A. Farber,Jim Chen Disasters and the Law―KATRINA AND BEYOND ASPEN PUBLISHERS 2006〕。そこでは、防災政策全体にわたった論述がなされているが、そこで強調されている事柄は、自然災害が発展途上国である、先進国であるとに関わらず、社会的に脆弱な人々・階層に集中して被害をもたらすということである。
また、FEMAを相手取った訴訟も提起されている。比較法的な研究を進めることで、災害法学の構築に加えて、防災政策の人権政策論的アプローチの確立を行いたい。
山崎(栄)は、他の研究機関との共同研究に携わっており、それをきっかけに研究スタイルの特徴づけならびに研究のさらなる発展をはかっている。具体的な共同研究の内容は以下の通りである。